マーシャル・ゴヴィンダン・サッチダナンダ
私たちは個々に、そして集団として、目を開けたまま夢を見ており、人間性の限界と闘っている。 ヨーガの科学的技法は、シッダたちがマーヤーの5つの要因と呼ぶこれらの限界を私たち一人ひとりが克服するための手段を提供してくれる。この手段は、サーダナと呼ばれるヨーガの実践であり、喩えると、私は誰なのかを思い出し、私でないものを手放すという2つの翼を持つ鳥のようなものである。その目的を理解することは、ヨーガの可能性を実現するために不可欠である。 ヨーガの実践のそれぞれの目的を理解しなければ、行先への地図も案内もない自動車を所有するようなものである。
マーヤーは自己忘却と限界を出現させる
ヨーガのシッダ達の教えであるシッダーンタは、人間性を含む自然界の全てのものは、エネルギーとして現れ、空間から発散し、空間に溶け込むと説いている。 シヴァ・シャクティと呼ばれる意識的エネルギーは、意識が振動数の低いレベルへと降りていくにつれて、最も崇高なレベルから最も物質的なレベルへと姿を現す。したがって、本質的には何も固体ではない。ヨーガのシッダたちは、36の原理、すなわちタットヴァにおいて、これらの振動数への地図を私たちに提供した。当初は、地、水、火、風、空の5つの要素、感覚知覚の本質、感覚器官、行動器官、心、知性、自我を含む、タットヴァとして知られる23の原理のみに限定されていたが、後に12の原理が追加された。 シャクティは、マーヤーの力によって、5つの精神的妄想を引き起こす5つの媒介(外套)を通して、光り輝く真我認識、すなわち見る者を隠したり現したりする心の力を創り出し、それによって人は5つの方法で分離や制限を経験することになる。これらは身体的に体験することができる。つまり、それぞれを瞑想するときに、身体の感情に集中することによって体験することができる。
鳥の両翼
パタンジャリのヨーガスートラの中で簡潔に表現されている古典的なヨーガは、クリヤーヨーガを次のように定義している(2章1節)。(注1)
自分が何者であるかを思い出すこと、自己探究
苦しみを克服したいという人間の普遍的な欲求は、人を 「なぜ私は苦しんでいるのか?」、そして究極的には「自分は何者なのか?」という実存的な問いに導く。 痛みと、その結果として生じる感情的・精神的な苦しみが混同されることで、この問いは通常、痛みを和らげられるものは何か、苦しみから気を紛らわせるものは何か、ということにすり替わってしまう。娯楽、ソーシャルメディア、嗜好品など、気晴らしにはさまざまなものがあり、中毒性もある。しかし、ある時点で、その苦しみは、多くの人を、永続的な幸福の手段を内側に求める気にさせる。何千年もの間、あらゆる文化において、それは形而上学的、心理学的、叡智的な教えという形をとってきた。古典ヨーガには、これら全てに加え、精神科学が含まれている。 パタンジャリはこれを「自己探究(スヴァディヤーヤ)」と呼んでいるが、これには聖典の学習だけでなく、より重要なこととして、自分自身の行動や心の精神力学を観察することも含まれる。これは、第一イニシエーションで教えられるように、自分の観察を日記に記録するという形をとることもある。その結果、人は「見られるもの」とは異なる「見る者」、すなわち「留まるもの」をより意識するようになる。人は人格、精神的な動きの総体、習慣的な反応、自己言及的な物語と同一化したままでいることをやめる。人は識別力を養うことによって、真我、観察する存在、あらゆる経験を通じて不変の存在と徐々に同一化するようになる。 ヨーガスートラやギーターのような聖典の言葉に思いを馳せることは、「それ」を映し出す鏡となってくれる、あるいは思い出させてくれる。その結果、五感が可能にする第一次的な現実体験や、未解決の感情的傾向や文化的影響に突き動かされた左脳が思考を捏造し、それらを真実だと信じ込ませる心の混乱である第二次的な現実体験を超えた、根源的な現実に対する識別力が生まれる。これらの第2次体験は、各人の物語や意見から生まれた心の地図である。自己探究には、これらがいかに個人的で歪んだものであるかを自覚することが必要であり、そのためには厳しい修行(タパス)が必要だ。
自分でないものを手放す:タパス
タパスとは何か? それは、真我実現のための激しい、あるいは長期にわたる修行のことで、身体、感情、心の自然な傾向に打ち勝つことを伴う。パタンジャリが定めたサーダナは「無執着」言い換えれば「手放すこと」である。
絶え間ない修練と無執着によって、(意識の揺らぎとの同一視)が止む。1章12節
これは、パタンジャリの『ヨーガスートラ』の195のスートラ(節)のうち、30以上で直接的または間接的に言及されている。心理的なレベルでは、非常に治療効果がある。日常生活では、恐怖、怒り、妬み、貪欲、憂鬱、あらゆる種類の不満、自己批判など、困難な感情の引き金となるものを含む弱さに気づくために使うことができる。クリヤーヨーガのタパスでは、それらをはねのけたり、助長したりするのではなく、繰り返し「手放す」が要求される。 気づきを伴う行動がクリヤーである。 カルマとは、結果を伴う行為である。カルマとは、私たちの習慣や条件付けの総体である。カルマを分析したり、理解したりする必要はない。ただ、カルマと同一化する習慣、すなわちエゴイズムが、いかに私たちの意識をカルマに収縮させるかを認識するだけでいい。 この収縮の中で、私たちは目を見開いたまま夢を見ている。これらの動きがそこから発し、そして手を放すとすぐに消えてしまう大いなる気づきを私たちは忘れている。「私は在る」が留まる。自己言及的な物語を語るときにこの思考に続くものが消える。例えば、「私」は疲れている、怒っている、恐れている、必要だ、悪い、良い、彼より良い、といったものである。 次第に、あなたが誤って同一化していた、条件づけられた精神的・感情的反応の独自の個人的コレクションの中で反応し、収縮する代わりに、あなたは心を開いて気づきに関わる。気づきは対象ではない。主体である。 それは、「保持する」を意味する「ダル」に由来する「ダルマ」のように、すべてを調和的に保持するものである。その結果、エゴイズム、カルマ、マーヤーの現れに苦しむことがなくなる。
神への明け渡し、カイヴァリア: 鳥は広大な光り輝く空間へと舞い上がる
上記のように、エゴイズム、マーヤー、カルマから解放され、その条件づけや真我への無知から解放されると、自然の力の影響を受けないカイヴァリアに近づく。この自由は逆説的に、至高の存在である神への明け渡し(イーシュヴァラプラニダーナヴァ)を包含する。 パタンジャリはこう語る。
イーシュヴァラは神我であり、いかなる苦悩、行為、行為の結果(カルマ)、欲望にも影響されない。1章24節
人は、上記のようなマーヤーの媒介によって制限されたエゴの視点を、永遠の観察者の視点に明け渡す。 人はサマーディにおいて、気づいているものに気づくようになる。精神的な静寂が支配する。感情が静まる。完全への向上心、真・善・美の認識によって、動かされる。「完璧な者は誰もいない」という言葉は逆説的に真実となる。一個人と同一視しない、何者でもない者が完璧だからである。人は導きを感じ、共同創造者として鼓舞される。人は神を、ヨガナンダの言葉を借りれば「常に新しい喜び」として経験する。内なる神を「光り輝く真我認識」として、スヴァルーパ(自ら輝く顕現)として、あるいはヴェッタヴェリ(広大な光り輝く空間)として悟る。
シッダーンタ(シッダたちの教え)は、ヨーガとタントラの技術による人間性の進化的変容を想定しており、ヨーガの社会的抑制であるヤマ(アヒムサ(不殺生/親切)、サティア(真実)、ブラフマチャリヤ(絶対的存在・意識・至福に向かって絶えず進むこと)、アステヤ(不盗)、アパリグラハ(不貪)から始まる。(注2)
セラピストの意識レベルによって制限され、人間の本性の限界や社会的行動の規範に適応しようとするセラピーとは異なり、タントラは完全を求める。
この明け渡しは、すべての些細で愚かな感情的条件付けを含む、抵抗するすべてのものを拒絶することから始まる。未知のもの、失敗への恐れ、十分でないことへの恐れに直面する勇気が必要である。ひよこではいられない。 鷲のように舞い上がるには、翼を伸ばさなければならない。シッダを見習いなさい。シッダの教えが導いてくれる。
光を知れば、肉体は隠される
滅びゆく肉体のことを常に考えるなら、そこには誕生がある
光の形に集中すれば、光がある
光に溶ければ、神はあなた方と一体となる。
光の宇宙に入るのは簡単なことだ
広大な光は闇を完全に一掃する
蓮の上で、それは明るい太陽のように輝く
暗闇を一掃し、神はそこにおられる。 ティルマンディラム 2681から2882
注1:パタンジャリとシッダのクリヤー・ヨーガ・スートラ、M.ゴビンダン著https://www.babajiskriyayoga.net/english/bookstore.htm#patanjali_book
注2:反対を行う:良い関係を築くための5つのヨーガ的鍵 https://www.babajiskriyayoga.net/english/bookstore.htm#opposite_doing_ebook
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